マイクロ波加熱

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6.6 マイクロ波加熱装置の発展経緯

電波法・第二条では、発振周波数が300万メガヘルツ(3000GHz)以下の電磁波を電波と規定しており、一般的にその中の「0.3〜30GHz(波長1m〜1cm)をマイクロ波と称し、このマイクロ波を利用して物質を加熱するのが誘電加熱の一種であるマイクロ波加熱であることは既に記述した。

マイクロ波を利用した誘電加熱装置は、大きく分けて家庭或いは業務用としての電子レンジと産業用に利用されるマイクロ波加熱装置とがある。それぞれに前者は家電製品として成熟し、後者は工業用として殆んどの産業分野に導入されているものの、両者の技術的交流というものは意外と少なく独立して技術開発は進んだと言える。以下、両者の発展経緯について記述する。

6.6.1 電子レンジ

この加熱現象を偶然見つけたのは、戦時中米国でレーダ関係を開発中に開発研究者が着用していた作業衣のポケットに入れていたチョコレートが軟化していたことに気が付いたことがキッカケと聞いている。その後、昭和29年(1954年)に米国でこの加熱原理を利用した「Rader Range」という商品が開発・販売されたが、これが今で言う電子レンジの始まりである。よく「濡れている猫を電子レンジで乾燥し殺してしまった…?」という冗談を聴くことがあるが、真実かは定かでは無い。多分、何方かが面白半分に話題にし、それが一人歩きしたのが真実かもしれない。

わが国で業務用としての電子レンジが最初に商品化されたのは、昭和37年(1962年)で当時の国鉄の寝台車に搭載され、次いで昭和39年(1964年)に新幹線の「ひかり・こだま」などのビュッフェ向けに採用されている。発振周波数2450MHz、発振出力1〜1.2kWの水冷式マグネトロン(2M89)を利用している。開発当時の電子レンジの重量は「100kg」程度と非常に重くて、価格も「100万円」を超えており、当時の初任給が「1万数千円」を考慮すると非常に高かったことが分る。

尚、この頃のマグネトロンは発振効率があまり高くなかったので冷却効率の高い水冷式(冷却水は循環式で空冷式熱交換器を内蔵)を採用しており、必要磁界も現在のような永久磁石ではなく電磁石を利用していた。更に、マグネトロンのアンテナ部の気密保持は石英製であり、アンテナが丸見えという代物であった。現在は出力3kW程度までのマグネトロンは空冷式に、磁界も永久磁石を利用し、石英もアルミナ磁器へと移行しており、隔世の感がある。ここで電子レンジ用マグネトロンの価格をみると、韓国メーカとの熾烈な価格競争による製造コスト削減があり、それを可能にした製造技術の発展や製造工場の海外移転などとが相まって、今や1本当り「千円」を大幅に切っており、「数銭」単位のコストダウンに鎬を削っていると言われている。

AC100V対応家庭用電子レンジは、昭和43年(1968年)に開発・商品化され、現在では多機能で高価なものと、単機能で極めて安価なものの二極化した成熟製品となっている。この発展過程で、昭和52年(1977年)頃までは単機能の電子レンジであったものが、昭和53年(1978年)頃よりオーブン機能とグリル機能を備えたものが開発売り出され、更に昭和56年(1981年)頃からはエレクトロニクス技術の発展に伴い、マイコンと各種センサを利用した自動調理が行なえる多機能なものや、高電圧発生部は重いトランスを利用しないインバータ(スイッチング電源)を利用した電子レンジへと発展している。

現在はヒータ、熱風、過熱水蒸気(100℃の水蒸気をヒータで加熱し200〜300℃にした水蒸気)を併用した電子レンジが市販されている。以上の機能を有しながら、高周波出力は「1kW」、重量が「約20kg」、価格も「10万円」程度となっており、現在の初任給を考慮すると技術革新のありがたさが理解できると思う。

図6.6.1 に高周波出力1kW程度の開発販売当初と現在の電子レンジの外観を示している。

(a) 各種加熱機能を備えた現在の電子レンジ
(a) 各種加熱機能を備えた現在の電子レンジ

(b) 開発販売当初の電子レンジ
(b) 開発販売当初の電子レンジ

図6.6.1 電子レンジの外観
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